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第10話・臆病な私でして 1

Auteur: 阿良春季
last update Dernière mise à jour: 2025-06-30 06:56:41

「生き……てた……」

 目が覚めて開口一番、呆然とした顔でミオはそう呟いた。

 まず目に飛び込んできたのは見慣れた自室の天井である。

 どうやら自室のベッドに寝かされていたようだ。

「ミオ姉!」

 ベッドの横にいたピラートがミオのその呟きに気付いて、慌てた様子で顔を覗き込む。

「ピラート……」

「エクラ姉! ミオ姉が起きたよ!」

 ピラートは目覚めたミオを見るなり、大声を上げて部屋の外に出て行った。程なくしてバタバタと複数の足音が廊下の向こうから近づいてくる。

「ミオ!」

 ピラートと共に息せき切って部屋に駆け込んできたのはエクラであった。

「ミオ! 分かる? 喋れる? 具合悪いところない?」

「……っエクラさん……おはよう……ございます……」

 矢継ぎ早に質問しながらも、エクラはミオの手首から脈を測ろうとする。ちゃんと発声してみるとミオは自分の声が思った以上にガラガラに掠れていることに気づいた。

「喋れる! 良かった! どっか痛むところある? おかしなところはない? あなたもう三日も眠っていたのよ……っ本当に良かった……」

 人形のような美貌を今にも泣きそうにぐしゃぐしゃに歪めたエクラが安堵の息を漏らす。そしてそのままベッドの横にしゃがみ込んでミオの額の熱を白魚のような手で測り始めた。

 エクラのそんな行動を聖女らしいとミオはぼんやりと思いながら眺める。

「え……三日……?」

 しかし起き抜けでぼんやりしていた頭が次第にはっきりしていくと、「三日も眠っていた」と言う言葉に遅れて驚いてしまった。

 そんなに眠っていたのか。全然自覚がない。

 ただエクラにそう言われ、体の不調を自覚してしまったせいなのか、全身に一気にずしりと鉛のような倦怠感が襲いかかってくる。

「……そんなに……?」

「そうよ全く! 私がいなかったらあんた本当に死んでたのよ!」

 エクラが涙を堪えた真っ赤に充血した瞳をしながらも頬を膨らませてミオを睨んだ。

 どうやらミオが意識を失った後、エクラの奇跡の力に助けてもらったらしい。そしてそのエクラの献身のおかげでミオは死なずに済んだようだ。

「ありがとう……ございます……あの、レイ様は?」

 まだ掠れた声でミオがそう尋ねる。すると気を利かせたピラートがベッドサイドに置いてあった水差しを
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